これは今から数十年後の物語。
地球からはるか遠くに位置する惑星M。
惑星探査省と呼ばれる省庁の一室でふたりのM星人が向かい合っている。
ひとりは惑星探査から戻って来たばかりの若いM星人。
もうひとりはやや年配で、若いM星人の上司に当たる。
以下はふたりの会話である。
「地球の探査結果をご報告いたします」
「我々ほどではないが、高度な文明を持つ惑星だったな。よろしく頼む」
「事前の推測の通り、それなりに文明の発達した惑星でした。環境問題や人口問題など、かつて我々も直面した問題を抱えているようです」
「なるほど。そのあたりを乗り越えられるかどうか、今後も定期的な観察が必要かもしれないな。ほかには?」
「数十年前に疫病が大流行して大きな被害が出たようです。ほとんどの国は最終的にウイルスを制圧することに成功しましたが、ニッポンという島国だけが壊滅しています」
「その国はいわゆる発展途上国なのかね?」
「いえ。かつては世界有数の経済大国で、文明もそれなりに発達しています」
「ふむ。ウイルスの特定ができなかったとか?」
「いえ。かなり初期の段階でウイルスの特定はできています」
「感染を防ぐ手段がなかったとか?」
「いえ。他人との接触を避ければ感染を防ぐ事ができます。この知識は地球上で共有されていたようです」
「原因もわかっている。予防法もわかっている。それにもかかわらずニッポンという島国だけが壊滅してしまった理由がわからんのだが」
「わたしも不思議に思って調べてみたところ、どうやら経済活動を止めることができず、感染が爆発的に拡大してしまったようです」
「なんてことだ。それはまるで…自殺しているようなものではないか」
「ええ。我々には理解できない非合理的な選択に思えます」
「他の人種は生き残ったのに、どうしてニッポン人だけ…」
「そうおっしゃると思って理由を調べてみたところ、ニッポン人に関する興味深い文献を見つけました。彼らは他の人種からこのように呼ばれていたそうです」
「なんだね?」
「エコノミックアニマル、と」
「なるほど。自然淘汰だったというわけだな」