セックス、ドラッグ、入院、手術、ロックンロール(4)

爪の白い部分は絶対に許さない。

どうも。常に深爪派の僕です。

 

えー。わたくしの細々とした入院生活を綴るブログも今回で第4話を迎えました。

いい加減そろそろ終わって欲しいと思っている方も多いでしょうし、わたくしもそろそろ終わりにしたいと考えております。

前回の記事でもお伝えしましたが、入院生活における最大のハイライトとなる手術というイベントを第2話で早々に語ってしまいましたので、もう語るべきことはそれほど残っておりません。

盛り上がりに欠けた前回よりもさらに地味、出涸らしのお茶のような味気ない第4話となることが予想されます。あらかじめご了承くださいませ。

 

いきなり第4話から読む人はいないと思いますが、「映画『スターヲーズ』シリーズみたいに第4話がエピソード1に相当するのでは?」などと変な深読みをするキチガイ 独創的な人が出現する可能性もゼロではないので、過去記事のリンクを時系列順に貼っておきます。

何かの手違いでこの記事にたどり着いてしまった人は、下記リンクを1番上から順繰りにお読みください。

よろしく哀愁です。

 

 

このシリーズの第1話を公開したのは6月2日のこと。

退院が5月30日だったので、入院生活を終えた3日後ということになります。

入院生活を送っている間に「顎の骨が真っ二つになって入院しております」ということをTwitterで明確に発信しなかったため、「あいつ、どうも入院してるっぽいけど、実際のところどうなんだ」とご心配してくださった方も多く、その節は大変ご迷惑をおかけいたしました。この場を借りてお詫び申し上げます。

 

しかもタイミングの悪いことに、3月末頃から謎の体調不良に悩まされていた最中の予期せぬ入院だったので、それと今回の入院を結び付けて「もしかしたら余命いくばくもないりょうさんの爆誕なのでは…?」と命に関わる事態を想像していた向きも少なくなかったようなのです。

 

わたくしの友人にじょのさん(ブレイクダンス界では知らぬ人がいないレジェンド級ダンサー)という人がいるのだけれど、彼女の旦那さんがわたくしの身を非常に案じてくださったようで、「余命いくばくもないりょうさんが爆誕してしまったのなら、せめてなにかしらのプレゼントを贈りたい」と贈り物を見繕ってくれていたそう。

そんな状況のなか、退院したわたくしがへらへらと笑いながら公開したブログを読んだじょのさんご夫妻は「なんだ。余命いくばくもないりょうさんじゃないじゃん」と憤慨し、最期のプレゼント計画はご破算となったそうです。

 

つまり、入院・手術の顛末を綴ったブログを不適切なタイミングで公開したことにより、わたくしはプレゼントをもらいそびれたばかりか、じょのさんの旦那さんを必要以上に心配させた悪人という汚名を頂戴することになったのであります。

まあ、プレゼントを頂戴したあとに事の顛末が発覚した場合、“お見舞い詐欺師”などという不名誉すぎるレッテルを貼られていた可能性もあるので、そのような悲惨な結末にならずに済んだことを感謝する日々です、はい。

 

もしかすると「じゃあ、入院中にちゃんとお知らせすればよかったじゃん。お知らせしないのが悪いんじゃん。報連相が出来てないんじゃん」などという意見もあるかもしれない。

そのご意見はごもっともで、わたくしとしても積極的に反論するつもりはないのだけれど、入院中にあえて詳細を明らかにしなかった理由を説明させていただきたい。

 

仮にわたくしが入院中に「酩酊して転倒した拍子に顎を骨折しましてー」などと状況を正直に説明した場合、「自業自得だろ、馬鹿」という意味合いのお叱りや罵倒が殺到するのは火を見るよりも明らかで、とても悲しくてやりきれない気持ちを抱えたまま治療に向き合うハメになることが予想されるため、退院を待ってご報告させていただくことにした次第であります。

この気持ち、どうかわかって欲しい。

 

あ。まだ本題に入っていないというのに脱線が過ぎましたね。

前回は手術の翌々日、上下の顎をゴムで固定する顎間固定がスタートしたところまでお送りしたので、今回はその翌日から話を進めてまいりましょう。

 

 

  • 2024年5月17日(金)~22日(水)

 

のっけから申し訳ございませんが、この6日間についてはわたくしは入院メモを記録しておりませんでした。

その理由は明確で、特筆すべきことがほとんどなかったからです。

ひたすらに顎間固定をしながら流動食を注入される日々を過ごしておりました。

 

手術が無事に終了した今、最優先となるのは正しい噛み合わせを獲得することで、やることと言ったら朝の診察で噛み合わせの状態をチェックされ、固定の仕方を微調整することだけ。

顎を正しい位置に誘導した状態で骨がくっつくのを待つわけで、1日2日では明らかな改善を実感しづらいフェーズなのだけれど、ここで治療をさぼって泣きを見るのは未来の自分ですからね。過去の自分を恨む人生にならぬように地道に頑張るしかありません。

 

あ。口がほとんど開かない状態なもので、医師から「この状態で嘔吐すると吐瀉物が口の中に溜まって溺れ死ぬ可能性があるから気を付けてね」と言われたのは怖かったな。

入院当初にわたくしを苦しめた溺死の恐怖がこの段階でも付きまというのかと心底うんざりした記憶。万が一に備えて流動食を入れたあとはナースコールを手元に置いて備えておったのですが、幸いなことに入院中に嘔吐することは一度もありませんでした。

 

そんな地道な6日間ではあったものの、自分が回復に向かっていると実感する出来事もありました。

それは、わたくしに不自由と不快感をもたらしていた要素のいくつかが解消されたこと。

具体的に言えば、手術後の腫れを軽減するためにギチギチに巻かれていた顔面の包帯、鼻血の止血のために右鼻にギッチギチに詰め込まれていた5枚のガーゼ、左前腕に留置されていた2本の点滴ルート、これらがわたくしの身体から取り外されたわけです。

 

いやー。ひとつ外れるたびに感じる解放感ったらなかったですね。

特に鼻のガーゼは不快感が半端じゃなかったので特に嬉しかったなあ。詰められた時は「まあ、数時間もすれば抜いてくれるんだよね」と考えていたのだけれど、そんなわたくしの予想は甘かった。たっぷり2日間そのままで泣きに泣いた。

 

まあ、流動食を注入するためのチューブはいまだに左鼻に入ったままではありますが、だんだんと身軽になってきて嬉しい。

抜けてはいけないチューブが身体にあるだけで人生はこれほどまでにハードモードになることを知りました。ティーシャーツ1枚脱ぐだけでめちゃくちゃ気を遣いますからね。

ウッチャンナンチャン炎のチャレンジャー これができたら100万円!!」の電流イライラ棒かっつーくらい慎重になってた。ホントに。

 

  • 2024年5月23日(木)

 

入院中は土日を除き、午前8時半になったら外来で主治医の診察を受けるのがルーティン。

いつものように診察台(歯医者にあるやつだ)に乗り、まな板の鯉状態で口の中をいじくり回されていると、「よし。今日からゴムかけを自己管理にしましょう。お昼から食事もスタートです」と待ちに待った医師の言葉が。

5月15日から9日間続いた流動食生活にもこれでピリオドを打つことが出来ます。

 

流動食生活が終わるということは、手術後から10日間入りっぱなしだった右鼻のチューブともようやくお別れ出来るということを意味します。

何かのアクシデントがこれが誤って抜けてしまうと大変な騒ぎになるため、着替えやシャワー時などにもっとも注意を払う必要があったのがこのチューブでした。

わたくしは咽頭反射(喉に異物が入ってオエッとなるやつ)が結構強い人間なもので、ふとした拍子にチューブが喉に接触するのがめちゃくちゃ不快だったのです。

 

このチューブは管理がかなり厳重で、挿入した時点で身体に何センチ入っているのかが記録されていて、抜け気味になったり、逆に奥に入り過ぎていないかを日々チェックされていました。

その記録によると、鼻の入口から胃まで、全長57cmが体内に留置されているようです。

30cm定規を2本繋げた長さのチューブを胃から引き抜くわけで、耐えられないくらい気持ち悪かったらどうしようと内心ドキドキしていたのだけれど、鼻の奥あたりがくすぐったいような感覚がするくらいで済みました。

これで身体に入っていた管が全部抜けたことになり、完全に自由の身となったわたくし。

あまりの嬉しさに小躍りしながら病室へ戻ったのは言うまでもないでしょう。

 

わたくしは入院前から鼻腔炎に悩まされておりまして、ずっと鼻水ズルズル状態だったのだけれど、このチューブが入っている限りは鼻をかむことを禁止されておったのです。

チューブを抜去した今、何に気兼ねすることもなく鼻をかめるわけであります。

いやー。すごかったね。めちゃくちゃデカい血の塊が出て来た。「えっ。鼻の中に入ってていい大きさじゃなくない?」って真顔になる大きさのやつが出て来た。

おそらく手術時に生じた鼻血が固まったものだと思うのだけれど、こんな怪物を10日間以上も鼻の中で育てていたわたくしってすごいなと我ながら驚嘆いたしました。

 

医師に説明された通り、この日のお昼から食事が開始。

入院日となった5月13日の朝に某ウィダー in ゼリーを吸って以来の口からの食事ですから、実に10日ぶりということになります。

もちろんいきなり普通の食事というわけにはいきませんが、ようやくここまでたどり着いたかと思うと胸が熱くなるものがありますね。

 

10日ぶりの食事のメニューはというと、ポテトと人参の炒め物、ほうれん草とハムのサラダ、かぼちゃプリン、そして「スパゲティ170g、ミートソース」と書かれている部分が消され、手書きで「全粥330g」と記載されておりました。

わたくしはミートソース大好きマンなので多少失望いたしましたが、出されたところで普通に食べられるかどうかも定かではないので、ここは「わあ~! 全粥大好き!」などと心にもないことを言って自分を偽るしかありません。

 

食事の形態はミキサー食。わたくしの勝手なイメージでは、食事をざっとミキサーにかけてペースト状にしたものだと思っていたのだけれど、実際にはスープやポタージュといった感じのものでした。完全に液体。

元々の状態とは似ても似つかない姿へと変貌しているため、色と匂いをヒントに「これはほうれん草とハムのサラダかな?」と予想して口に運ぶ作業が必要となります。

味は普通に美味しくてビックリ。普段の食事のスープ枠として出されてもまったく問題を感じないレベルでした。

一番の難敵だったのは全粥330gだったなー。普通に量が多い。おかずがスープ状なので飯の友にもならないし、これほどまでにふりかけが欲しいと思ったことは人生で一度もなかった。

 

しっかりと歯磨きをした後は、初めてのゴムかけにチャレンジ。

目の前に卓上ミラーを置き、お手本用に撮影してもらった写真を見ながら直径5ミリのゴムを装着していきます。

最初こそ少し手間取ったものの、よっぽど手先が不器用でない限りはそれほど難しい作業ではないと感じました。かけるゴムの数も3本と少ないため、やればやるほどスムーズにテキパキ出来るようになるはず。

インターネットで読んだ記事には「慣れてくれば鏡を見なくても出来る」と書かれていたのだけれど、わたくしはそこまでのレベルに到達できるのだろうか。

それは誰にもわからない。

 

  • 2024年5月24日(金)

 

この日の昼から食事の形態がアップ。

ミキサー食からキザミ食へと進化を遂げました。

 

キザミ食という名の通り、料理をザクザクと刻んで食べやすくしたものが出て来るのかと思いきや、ペースト状になったメニューが皿の中央に鎮座しておりました。

全粥330gはミキサー食のときから変化なしですが、今日は嬉しいことに三島食品の看板商品「ゆかり」(スティックタイプ)が添えられております。

いやー。ゆかりは本当にいい女ですよ。ゆかりがいなければこの先やっていけないと強く思いました。「一生一緒にいてくれや」と三木道三の名曲“Lifetime Respect”を絶唱しました。

 

医師からは「ひと口大の食事が食べられるようになったら退院かな」と言われておるもので、どんどん食べて食事の形態をアップさせていかなくてはいけません。

口を開けると顎の付け根はそれなりに痛いし、ゴムを引っ掛けるための金具が唇の内側にグスグス突き刺さるにも地味に痛い。

噛み合わせ自体もまだまだ完璧とは言い難い状態なので、噛むというよりも上顎と舌ですり潰すようにして食べ進めていくしかない。

しかし、とにかく食べるのが退院への最短コース。家に帰りたい一心で食べ続けるしかないのですよ、あたしゃ。

 

治療の一環として食事に向き合うわたくしの脳裏に浮かんだのは、ヘヴィメタル専門誌BURRN!に掲載されたIron Maidenのヴォーカリスト、ブルース・ディッキンソンのインタビューだった。

彼は舌がんを克服したことで知られているのだけれど、その治療はかなり壮絶だったようで、特に放射線治療の副作用に苦しめられたとのこと。

口腔内が焼けただれ、鎮痛のためにモルヒネを使用しなければならない状態に陥ってしまったブルースだが、そんな状態にもかかわらずチューブによる流動食を拒否。自分の口で食事を摂取することにこだわったそう。

激痛に耐えながら数時間かけて食事をする生活を続けることが出来たのは、Iron Maidenの一員として再びステージに立つという目標があったからに他ならない。

 

退院という目標を胸に、痛みに耐えながら食事をしていたとき、わたくしは心のなかで完全にブルース・ディッキンソンになっていた。心のなかでユニオンジャックを振り回していた。

今年9月に予定されているIron Maiden来日公演では、ステージ上のブルース・ディッキンソンに向けて「わたくしも頑張って食べたよ!」という意味のアイコンタクトを送りたいと考えております。伝われ。

 

 

えー。本当なら今回で最終回にしたいと思っていたのですが、文字数的にここらで区切った方が良さそうです。

次回はいよいよ退院編ということで、地味だった今回にさらに輪をかけて地味な最終回になるのは確実でしょう。

「地味な話が好きだ」「家に帰って行くおっさんの話を読みたいと思っていた」「ここまで来たら最終回まで読まないと寝覚めが悪い」という方だけお越しいただければ幸いであります。

よろしく哀愁です。