セックス、ドラッグ、入院、手術、ロックンロール(2)

お忙しいところすみません。僕です。

わたくしの18日間にわたる入院生活の模様をお伝えするブログの第2回でございます。

 

前回は入院前夜から入院初日までをお送りいたしました。

「8,000文字も使って入院初日までかよ!」という罵声が聞こえてくるような気がいたしますね。

第1回を読んでいない、第1回の内容を忘れてしまった、布団に入ったが一向に眠くならないので退屈で冗長な文章を読みたいという方のためにリンクを貼っておきましょう。

よろしく哀愁です。

 

sasayaki-okami.hatenablog.com

 

ま、あまり前置きが長くなるのもアレなので、入院生活2日目以降の模様をお送りしてまいりましょう。

今回は何日目までたどり着けるのでしょうか。

それは誰にもわからない。

 

 

  • 2024年5月14日(火)

 

窒息死の恐怖と副鼻腔炎による鼻詰まりでほとんど眠ることが出来ないまま迎えた入院2日目の朝。

明け方にほんの少しだけうとうとしたのがせめてもの救いでしょうか。

 

とりあえず入院はしたものの手術日はいまだ確定していない身。

もう術前検査などは終わっているので、今日は何をするのかナーなどと呑気に構えておったのですが、朝の検温にやってきた看護師さんのひと言で事態は急展開を迎えるのでした。

 

「川崎さん、今日手術って先生から聞いてますよね?」

 

なぬー! 今日手術ですか!?

もしもわたくしがダチョウ俱楽部だったら病衣にキャップ姿で「おいおい! 聞いてないよー!」と叫ぶところですが、残念ながらわたくしはダチョウ倶楽部ではないので真顔で「いや、聞いてないです」と答えるだけに留めました。

昨日の時点ではオペ枠がいっぱいだという説明を受けていたのだけれど、ありがたいことにわたくしの手術を一番最後の枠にねじ込んでくれたらしい。

 

前の手術が終わり次第の入室になるので現時点では時間未定。おそらく午後3時くらいになるのではないかという話でした。

手術に備えて飲水は午前9時ストップ。術後から翌日まではHCU(準集中治療室)で経過観察となるとのこと。

とりあえず関係各所に「本日手術の運びになりました」と連絡を入れて回る。昨日の時点では「今日は手術じゃないよー」と伝えていたので驚かれる。そうよな、わたくしも驚いてる。

 

朝の診察で改めて医師から手術の説明。

手術と全身麻酔の同意書、そして麻酔の影響で不穏状態になってしまった場合に身体の拘束をおこなうことの同意書などにサインをする。

手術の同意書なんて仕事で数えきれないくらい扱ってきたけれど、いざ自分がサインをしてみるとその重みを実感いたしますね。まさに「命をお預けします」という感じ。

 

昨日撮影したCT画像が出来上がったとのことで、画像を見ながら説明を受ける。

話題の中心は誰が見てもバッキリ折れている顎の部分ではなく、下顎骨の付け根のあたり、つまり顎関節を形成している部分。

U ← これが下顎の骨だとしたら、一筆で書いた時の書き始めと書き終わりの部分だと思ってもらえばわかりやすいでしょう。

この付け根も骨折している可能性があるのだが、骨が重なっている部分なので通常のレントゲンでは診断が難しく、骨折の有無はCT画像処理の完了を待つ必要があったのである。

 

正直なところ、「いやー。さすがに付け根は折れてないっしょ。口を開けると痛いけど、もし折れてたらこんなもんじゃないっしょ、痛みが」などと思っておりました。

でもね、ディスプレイに映し出された画像を見た瞬間、「あのー。折れてませんよね、先生?」などという質問は世界一の愚問になることを知ったね、あたしゃ。

 

誰がどう見ても折れてた。両側の骨がお互いにお辞儀するみたいに内側に倒れてた。

このCTの初見により、わたくしの診断名は「下顎骨骨折、両側下顎関節突起骨折」へとランクアップを遂げたのです。3箇所も折れてやがる。めでたいね。

 

まあ、折れているものは折れているので、この事実はしかと受け止めるしかない。

重要なのはこの骨折に対してどのような治療をするのかである。

医師の説明よれば、この部位の手術は難易度が高いとのこと。

また、もしも手術をする場合は耳の下側を切開して骨折部位へアプローチをする必要があり、術後に顔面神経麻痺が出現するリスクもあるため、現時点では最優先するべき治療法とは言えないとのことであった。

 

手術をしないとなると保存療法ということになるのだが、折れた骨が癒合していく過程で関節機能がリモデリングされ、受傷前とほぼ同じレベルまで機能が戻ることが期待できるらしい。人間の身体ってすごいね。

期待した結果が得られなかった場合、リスクを背負って手術を受ける必要があるのだけれど、どちらに転んだのか判明するのは数ヶ月後の話。この手術が嫌すぎて、医師に「完治しました」と言われるまでは徹底的にいい子にしていようと考えております。

 

さらにCT画像を精査した結果、顎を強打した衝撃で折れた歯が体内に食い込み、骨折部位に迷入していることが判明。

これについては「手術時に除去できるとは思うけど、CT撮影時とは別の場所に移動しちゃってる可能性もあるからなんとも言えない」とのことであった。

除去できなかった場合は感染の原因になり得るという恐ろしい補足説明までされたので、わたくしは心のなかで「どうにかして見つけてください! 徳川埋蔵金を探しているときの糸井重里のメンタルでよろしくお願いします!」と絶叫しました。

 

CT画像初見や手術の内容、今後の治療方針など諸々の説明を受けた後、再び病室へ。

ここからは手術待ちタイム。術後数日は入浴できない可能性が高いため、このタイミングでシャワーを浴びさせてもらえたのはありがたかった。

人生初の手術ということでもっと恐怖心が湧いてくるかなと思ったけれど、「急に悟りでも開いたんか、ワレ!」というレベルで平常心を保つことができました。

まあ、どう考えても手術を受けることが最善手である以上、この期に及んで他の道を模索しても栓なきことですからね。

とはいえ、同じ治療をしてもすべての人が同じ結果を得られるとは限らないという医療の不確実性も承知しておりますので、「もしかしたらこの景色が見られるのはこれが最後かもしれない」などとエモくなってしまった瞬間があったことは否定いたしません。

 

病室で待つこと数時間。ついに運命の時間がやってまいりました。

予定よりも少し早い午後2時半。いよいよ病棟から手術室へ向けて出発であります。

病棟看護師に付き添われ、しっかりとした足取りで手術室へと歩を進めるわたくし。そのメンタルは完全にホイス・グレイシー戦に向かう高田延彦であります。

 

手術室の扉をくぐった我々を出迎えてくれたのは、いかにも「オペ室ナースです!」という佇まいの看護師さん。

病棟看護師から手術室看護師への申し送りがおこなわれ、わたくしの身柄は手術室へと引き渡されました。

これがドラクエシリーズだったら「病棟看護師がパーティーから外れた!」「手術室看護師がパーティーに加わった!」などといちいちBGMが鳴り響いているところでしょう。

 

手術室看護師に誘われ、いよいよわたくしの手術がおこなわれる部屋へと入室します。

無影灯に手術台、患者のバイタルサインを監視するモニター類など諸々の機材が置かれた無機質で殺風景な部屋です。

ここで初めて麻酔科の先生ともご対面。若い女医さんでございました。

 

手術台に寝かされ、口元に酸素マスクをあてがわれるわたくし。

おそらくどこかのタイミングで眠くなる薬剤が入ってくるのでしょう。身体を楽にして大きく深呼吸をするように促されます。

深呼吸をしている途中で不意にむせ込んでしまったところ、手術室看護師さんが「その薬、むせてしまう人がいるんですよー」とフォローしてくれたのだけれど、麻酔科の先生が「いや、まだその薬は流してないから」とピシャリ。

わたくしの心のなかの粗品が「ナチュラルなむせ!」とツッコミを入れました。

 

全身麻酔といえば「意識が途切れたと思う間もなく手術が終わっていた」とか「意識を保とうと全力で抗ってみたけど気付いたら手術が終わっていた」とかいう話をよく見聞きするじゃないですか。

わたくしはビビりなもので、下手に麻酔に抗ったせいで手術の途中に目覚めてしまったら怖いナーと思い、自主的に全身麻酔というビッグウェーブに乗っていこう、積極的に流されていこうと心に決めておりました。

そもそも前夜があまりよく眠れていないもんで、麻酔薬が少しばかり身体に入っただけでスヤスヤと眠りの世界へと誘われてしまうことでしょう。

 

どのくらい意識を失っていたのでしょうか。

ふと目覚めたわたくしが見たのは手術室の天井でした。どうやらまだ手術台の上のようです。

全身麻酔後はもっと意識がドロドロしているのではないかと予想していたのだけれど、めちゃくちゃクリアな目覚めでした。こんなにスパッと覚醒するものなんですね。

 

っていうかバカ! まだ手術前じゃないですか、これ?

わたくしの身体にはメスのひとつも入ってないですよね、まだ。

これが北野映画だったら「手術もう終わっちゃったのかな?」「馬鹿野郎。まだ始まっちゃいねえよ」という名シーンになるところですよ。

 

もしもこのまま手術に突入なんてことになれば一生のトラウマになることは確実。

目が覚めてしまったことを周りの人たちに伝えようとしたのだけれど、身体の方はしっかりと麻酔が効いているらしく指1本動かすことができません。

これってスティーヴン・キングの短編であったやつじゃん!(死亡したと思われて意識のあるまま病理解剖されそうになる話がある)

文句なしに人生で一番恐ろしい瞬間を迎えてしまいました。

 

幸いなことに麻酔科の先生がわたくしの異変に気付いてくれたようで、執刀医をはじめとするスタッフに状況を説明してくれました。

 

「もしかしたら患者さん起きてるかも」(はい! 目覚めております)

「私たちの話が聞こえてるかもしれない」(はい! 聞こえてます!)

「お酒をたくさん飲む人は麻酔が効きづらいとか言うよね」(はい! たくさん飲む人です!)

「ほら、眼が動いてるもん」(はい! 動かせるところが眼しかないんです!)

 

わたくしが覚えている手術前の光景はここまで。

よくわからないけど妙にリアルな夢を見ているところで「終わりましたよー」と声を掛けられ、自分が無事に生還したことを知りました。

手術が当初の予定通り上手くいったこと、骨折部位付近に迷入していた歯の破片を除去できたこと、経鼻気管挿管中に鼻血が出たことなどの説明を受け、、ストレッチャーでHCU(準集中治療室)へと搬送されたのでした。

 

HCUのベッドに横たわり、自分の身体を改めて観察してみると、口元には酸素マスク、左腕には点滴のルートが2本、左鼻には今後の流動食生活のためのチューブが1本(胃までの距離57cm分が体内に入っているそう)、ちんこには尿道カテーテル、頭部は包帯でグルグル巻きにされていた。

グルグル巻きといってもミイラ男のような感じではなく、顔はしっかりと露出している状態。顔の輪郭部分に沿ってグルグル巻きにされておりました。

なんでも術後に包帯でしっかりと圧迫してくと腫れが引くのが早いんだとか。腫れが軽減するのはありがたいけど、わりと圧迫感があって閉所恐怖症気味の人間としてはなかなか辛いものがあります。

 

痛み止めが効いているのか、心配していた術後の痛みはさほどでもないのが不幸中の幸い。

その後も「あ。ちょっと痛くなってきたかも」というタイミングで薬剤を適宜追加してもらったおかげで痛みに悩まされることはありませんでした。

 

しかし、閉口させられたのは、昨夜と同じく窒息の恐怖。

入院前から悩まされていた鼻炎の症状に加え、左の鼻には栄養のチューブ、そして右の鼻は挿管で生じた鼻出血によって血液が喉に流れ込んでおり、口呼吸によって生かされている状態でした。

いや、これはマジでつらい。術後の痛みじゃなくて呼吸しづらさで泣く。

 

HCUの看護師さんに「痛みよりも喉に流れ込んでくる血液がしんどいです」と再三訴えた結果、痰などを吸引するための吸引カテーテルを貸してもらうことができました。

そんなに細いカテーテルではないので喉の奥まで挿し入れることはできないのだけれど、それでも結構な量の血液混じりの唾液が引けて、呼吸も気持ちもかなり楽になりました。

わたくしが無事に朝を迎えることができたのはこの吸引カテーテルのおかげだと言っても過言ではないでしょう。マジでありがとう、吸引カテーテル。そしてHCUの看護師さん。

 

時系列が前後してしまって恐縮だけれど、術後に様子を見に来てくれた主治医にも「鼻血が辛いです」と訴えたところ、止血用のガーゼを入れることに。

血管を収縮させる効能がある薬剤に浸したガーゼを鼻の奥深くへと詰め込んでいく処置でございます。その数、合わせて5枚。

薬剤の効果はもちろん、鼻腔内にガーゼをギチギチに詰め込むことにより、圧迫止血をしているんだとか。

鼻血が止まるのは嬉しいのだけれど、左鼻には栄養チューブ、右鼻にはギチギチに詰まったガーゼ。これでわたくしの鼻呼吸の道筋は完全に断たれました。

わたくしの新番組「朝まで口呼吸!」をどうぞお楽しみください。

 

口の中に流れ込む血液をひっきりなしにカテーテルで吸引し、一定時間で勝手に作動する血圧測定機に右腕を締め付けられ、あちらこちらのベッドサイドで鳴り響くモニター類のブザー音が奏でる自由演奏に耳を傾け、看護師さんに「痛みは10点満点中5点くらいです」などと回答しているうちに、徐々に空が白んできました。

頑張れ、口呼吸。夜明けは近いぞ。

 

18日間の入院中、この夜が一番しんどかった。

もっと辛い治療なんて世の中にいくらでもあるとは思うのだけれど、あの一夜の経験はわたくしの人生観になんらかの影響を及ぼしたと思う。

唯一良かったなと思ったのは、今回の怪我が100%自分の過失によるものだということ。

もしも他人のせいで怪我をしていたら、「あいつのせいでこんな酷い目に…」とめちゃくちゃ恨んでいたはずなので、誰かを恨むような人生にならなくて良かった。

 

 

ふと気が付けば5,000文字を超過しておりました。

手術翌日くらいまで書き進める予定だったのですが、今回も冗長に冗長を重ねてしまいました。申し訳ございません。

 

第2回はこのくらいにしておいて、次回は「りょうさん、HCU大脱出」からお送りしたいと思います。

みなさまにおかれましては健康にくれぐれもご留意して日々をお過ごしくださいませ。

よろしく哀愁です。