鶯谷という場所がある。
いや、正確に言えば、無い。
何を言っているのかと怒られそうだけれど、現在は地名としての鶯谷は存在せず、駅名としてその名を残すだけとなっているようである。
東京都台東区にあるエリアで、いわゆる下町ということになるのだろう。
いわゆる下町と呼ばれるエリアなのだと思う。
駅周辺には居酒屋やホテルが立ち並び、お世辞にも綺麗な街並みではない。
若者に人気の街でないことは明白だし、好きな女の子をやっと遊びに誘うことが出来た男の子が初めてのデートの場所に選ぶこともないであろう。
アンケートの「住みたい街ベスト10」に入ることも未来永劫なさそうな街である。
「あこがれ」というよりも「たそがれ」、そんな言葉が似合いそうな街なのだ、鶯谷は。住んでいる人にぶっ叩かれるかもしらんけど。
いや、別に鶯谷を褒めたり貶したりしたいがためにこんな記事を書いているわけではないのですよ。
わたくしはロックが好きなもので、たまーにロックバーと呼ばれるロック音楽を聴かせる酒場に行くことがあり、行った際にはビアを片手に音楽に合わせて身体を少し揺らしたりもするのだけれど、鶯谷にもその手のお店があるのです。
「ロックバー叫び」なる厳つい名前のお店がそれだ。
これが「Rock Bar Scream」なんて名称で渋谷あたりに店を構えていたら「おっ。ちょっくら行ってみようかな」となるのだが、なんせ「ロックバー叫び」で鶯谷である。
遺書のひとつも遺して行かないとおいそれと足を運ぶことは難しいでしょう。
いきなり営業妨害に近いようなことを書いて来訪のハードルを上げてしまったのだけれど、実際のところ、わたくしはこの店をすこぶる気に入っている。
お酒の味、マスター(とアルバイトのバーテンダー)の接客、雰囲気、音響など気に入っている要素は数あれど、ロックバー叫びをわたくしにとって特別なお店にしている理由は「とてつもなくロック」だからである。
以下にその理由を説明していく。
飲食店に「とてつもなくロック」を求めていない人はこの先を読む必要はなく、タレントのヒロミさんのWikipediaなどを流し読みしていただければいいと思う。
鶯谷のロックバー叫びは、カウンターのみ10席ほどのこじんまりとしたバーである。
基本的にマスターのとっしーさん(大きな身体に巨大なロックな魂を宿した心優しい男性)が一人で切り盛りしている個人経営店で、ドアを開けた瞬間に目に飛び込んでくるのは手前から奥まで椅子がズラリと並んだ光景なので、ほとんどの人の第一印象は「細長い」ということになるだろう。そして、その次にやって来る印象は「照明が赤い」であるはずだ。
細長くて照明が赤い店、それがロックバー叫びなのである。


これを読んで「そんなロックバー、どこにでもありそうじゃない。わざわざブログにすることないじゃない。舐めてるの、俺を?」と言い出す人もいるかもしれない。いや、きっといるだろう。
早合点してもらっては困る。ロックバー叫びが狂っているのはここから先の話である。
10席ほどの個人経営ロックバーということもあり、マスターの食い扶持を稼ぐ程度に細々とやっているお店だと思うじゃないですか、普通はね。
しかし、ロックバー叫びの音響設備には300万円ほどが投資されているとのことで、それはもう凄まじいサウンドで音楽を楽しむことができるのです。
もう一度言いますが、カウンター10席ほどの個人経営のロックバーですよ。
わたくしは初めてお邪魔して音楽を聴かせていただいた時、この店主は軽自動車にF1カーのエンジンを乗せる狂人だと思いました。
ジェフ・バックリィの“Hallelujah”を流してもらった時はマブで泣いた。
しかもね、お酒の種類もすごいんですよ。ボトルを眺めているだけでも楽しめるレベル。
ロックバーの看板を掲げているお店のなかには「適当な酒を出してロックを流しておけばいいだろう」みたいな志の低いところもあるじゃないですか。
まあ、それでお客さんが満足して経営も成り立っていればいいのかもしれないけれど。
それとは真逆をいくのがロックバー叫び。わたくしの知人のウイスキー大好きおじさん(埼玉県・会社経営)が満足するレベルのお酒を備えた優良店なのです。
ロックバーと名乗る以上、「ロック」も「バー」も1ミリたりとも妥協できないという姿勢、めちゃくちゃ好き。妥協できない人、好き。
マスターがいい感じに狂っているので、その匂いを嗅ぎつけて来る客も狂っております。
テンションのメーターが振り切れたモッシュ神(恥ずかしながら知人)がまさかの店内ダイヴを敢行。
店内でクラウドサーフが巻き起こるロックバーなんて世界広しと言えども叫びだけではないでしょうか。カウンター10席のロックバーでやるようなアクションじゃないんですよ、普通はね。
しかし、そんなカオス…いや、ケイオスすら飲み込んでしまう度量の大きさが鶯谷という街にはあるわけです。すごい街ですよ。
あれは昨年の話だったか、お店に顔を出すとマスターのとっしーさんが「いやー。こないだの周年イベントの時、お客さんがずっとジャンプしていたので床がベコベコになっちゃって…。業者を呼んで張り替えてもらったんですよ。大打撃ですよ」と人のよさそうな困り顔で珍事件の顛末を教えてくれました。
わたくしが「そんな酷い客がいるのか。困ったものだ」とビアを片手に憤っていると、そこに前述のモッシュ神が登場。
叫びで会うのは初めてだったので「よく来るんですか?」などと話を振ってみたところ、「いやー。こないだ盛り上がって跳ねまくってたら床をへこませちゃって」などと誇らしげに武勇伝を披露するではありませんか。
犯人、お前かよ!
まあ、そんなモッシュ神も足繁く通うロックバー叫びですが、わたくしがこのお店を気に入っている理由として挙げた「とてつもなくロック」はそういうことではありません。(部分的にはそうかもしれないけれど)
わたくしがロックバー叫びに共感しているのは、マスターのとっしーさんが「ロックを体験する場所、理想のロックを鳴らす場所」を創り出すため、文字通り身を削ってお店を営業しているところなのです。
その献身ぶりは「もしかして、とっしーさんはご自身の身体よりもロックバー叫びを大切にしている?」と感じてしまうほど。
とっしーさんはきっと、ロックバー叫びに心底惚れているのだと思う。
そう考えれば、SNS上で賛否両論を呼んだとっしーさんの投稿(ざっくり言えば「単価の低い客ばかりだと店が継続できない」という話)も大いに納得がいく。
自分の理想のロックを鳴らす場所、命よりも大切なロックバー叫びの未来に影を落とすかもしれない状況には、たとえ自分が悪者になったとしても苦言を呈さずにはいられなかったのだろう。
客商売である以上、店側がお客さんを選ぶことはできないが、「こういう考え方を持った店主がやっています」と広く知ってもらえたことは結果としてよかったのではないかと思う。
また、この記事では触れられていないが、某バンドのファンのクソ客率が高かったので某バンドの楽曲のリクエストを禁止したという話も最高だ。(これはご自身で調べてみて欲しい)
む。ここまでの説明を読んで「堅苦しい店」「気難しい店主」などと思われてしまうのは本意ではないので補足するけれど、ロックが好きな人なら大いに楽しめること請け合いのロックバーです。
先ほどの記事を読んで「高いお店?」という印象を受ける人もいるかもしれないが、音響システムの凄さ、お酒のクオリティなどを考えれば安すぎるほどだと思う。わたくしが初めてお邪魔した時、提示された会計金額を見て「これ、間違ってない?」「マスター大丈夫?」「意味のわからないハッピーアワー発動した?」などと同行者と話し合ったほどである。
最初から最後まで「狂ってるナー」と思わせてくれるの本当に好き。
そんなロックバー叫びが7周年を迎えました。
周年イベントが9月5日・6日に開催されるそうなので、興味のある方は短時間でも顔を出してみてはいかがでしょうか。
立ち飲み形式は嫌だヨーという方は通常営業の日に是非。日・月が定休日となっております。
【💐開店7周年💐】
— ロックバー叫び -ROCK BAR SAKEBI- (@ROCK_BAR_SAKEBI) 2025年8月29日
ロックバー叫びは2025年9月1日に7周年を迎えます。
感無量です。皆様ありがとうございます。
つきましては恒例の周年パーティーを9/5と9/6に開催いたします。
椅子を取っ払った立ち飲み形式で行います。
ロックを愛し当店も愛してくれているお客様は是非乾杯しに来てくださいませ⭐️ pic.twitter.com/t3Kp1rOsfT
こんなブログを書いていたら鶯谷に行きたくなってしまうネ。
理想のロックを鳴らす場の一部になれたら本望。
極上音響ロックバーで乾杯いたしましょう。
(以下、2025年9月12日 追記)
本記事の最後でご紹介したロックバー叫びの7周年記念イベントに行ってまいりました。
別記事にするのもアレなので、この記事に追記する形でご報告とさせていただきたい。
9月5日・6日の2日間にわたって繰り広げられた狂気の宴、わたくしがお邪魔したのは2日目にあたる土曜日であった。
開店時刻である20時少し前に到着すると、店の前にはロックバー叫びの周年を祝いたくて仕方がないといった面持ちの先客がすでに数名。
初日のイベントに参加して朝まで騒いでいたという猛者もおり、わたくしのような虚弱体質なおっさんでは太刀打ちできない空気を早くも肌で感じることとなりました。

ちなみにこちらが当日のロックバー叫びの入口である。
とてつもなく圧が強く、仮にイングヴェイ・マルムスティーン本人が通りがかったとしても、目をそらして素通りする可能性が高いのではないかと思えるほどだ。
また、ロックを知らない人が見たとしたら、フリーメイソンなど秘密結社の集会場だと理解されるのではないだろうか。まあ、当たらずとも遠からずである。
(注:この周年イベントのフライヤーはイングヴェイ・マルムスティーンの『The Seventh Sign』のジャケットのパロディ。7周年だから“The Seventh Sign”なんですね、きっとね)
いつもは入口から奥に向かって椅子がズラリと並ぶロックバー叫びだけれど、周年イベント時は椅子をすべて撤去しての立ち飲みスタイル。
開店後は次から次へとお客さんが入って来て、店内はあっという間に満員状態で、わたくしが陣取った最深部はほとんど冷房が効かないほどの熱気でありました。
ちなみにロックバー叫びには特製ティーシャーツが何種類かありまして、わたくしはこちらを着用してお伺いした次第です。江戸っぽさがあって非常に気に入っております。

わたくしは愛の街川崎に住んでおるもので、万が一にも終電を逃すことがないようにお店に着いた時点でジョルダン乗換案内で帰りの電車をしっかりと確認し、ことあるごとに現在時刻などを確認しておったのですが、爆音で鳴り響くロックの名曲の数々、美味しいお酒、楽しい会話、場の空気、人をかき分けて外に出ることの面倒くささ、などといった様々な要素の影響を受けて朝までコースを決意、結果的に20時から翌4時までの計8時間をロックとお酒にまみれながら過ごすこととなったのです。立ちっぱなしで。
まあ、結論から申し上げますと、朝までコースを選択して大正解でした。
世の中にこんな楽しい場所があるのかって言いたくなるくらい楽しかった。
ロックバー叫び名物、店内クラウドサーフを生で観ることができた時は心底感動いたしました。マスターのとっしーさん、バーテンダーのサラちゃん、常連客のモッシュ神が宙を舞う光景は一生忘れることがないでしょう。
こんなに狂ってるロックバー、世界のどこを探してもないですよ。完全に頭がおかしくて好き。
この日もモッシュ神は絶好調で、登場した瞬間からわたくしを大いに笑わせてくれました。
だってあなた、自分がクラウドサーフを決める直前の写真がプリントされたティーシャーツを着て登場したんですよ、モッシュ神は。
聞いたところによると昨年開催された某カヴァレラ兄弟の来日公演で撮影された写真のようで、柵だかオーディエンスだかの上に立ったモッシュ神が「我は覇者なり」といったキメ顔をしている図がバーンと印刷された最強のティーシャーツでした。
世界に2枚しか存在しないレア物だそうですが、2枚も存在する時点で冒涜的だろ、完全に。モッシュ神、マブで頭おかしくて好き。
(注:「我は覇者なり」がわからない人は「すべらない話」の小籔千豊さんの名作トークをご覧ください。プロの芸人のプライド、そして小籔さんの性格の悪さが炸裂する大傑作です)
2025年9月6日のモッシュ神がどのくらい絶好調だったのかがわかるエピソードをもうひとつだけ紹介しましょう。
深夜1時の鶯谷、完全にベロベロになったモッシュ神の足元がこちらです。

なぜだか靴を両足とも紛失したとのこと。
カウンター10席ほど(通常営業時)のロックバーでどうやったら靴が行方不明になるのかわかりませんが、どうやら少し外出した際に脱ぎ捨ててしまったようです。
殺し合いみたいなモッシュが起こるライヴの終演後、脱げた靴や踏みつけられた眼鏡などがフロアに落ちていることはよくあるけれど、ロックバーで靴が消えるのは斬新すぎる。何が起こっても不思議じゃない鶯谷、わけわからなくて好き。
(注:その後、モッシュ神の信徒たちの活躍によって無事に靴を回収できたそう)
モッシュ神の話ばかりになってしまうので話題を変えよう。
ロックバー叫びの周年イベント名物「叫BINGO」(楽しんごのアクセントで)も面白かったー。
簡単にシステムを説明すると、とっしーさんが流しそうな楽曲を3×3のマス目に書き入れて、2列揃ったらビンゴというゲームなのです。
わたくしが予想した楽曲はこんな感じでございました。

せっかくなら勝ちたいと思い、王道曲を多めに並べるという堅実な選曲です。
しかし、蓋を開けてみれば2列どころか1列も揃わず非常に悔しい思いをいたしました。
アーティストは当たったのに違う曲が流れてしまうことも多々あり、「叫BINGO、これはとてつもなく難しいゲームだぜ」と8周年イベント時でリベンジを果たすことを誓った次第であります。
(注:ずいぶん後になって、書くのはアーティスト名だけだって知った)
あ。モッシュ神とその友人を除けば、わたくしが面識のある方はいなかったのだけれど、「叫びのブログ(つまり、この記事のことだ)を読みました」と数人からお声掛けいただけたのは本当に嬉しかった。
書いたものが誰かに届くというのは非常に幸せなことですね、こんな零細ブログであったとしても。
この追記をお読みになるかはわかりませんが(まあ、読まないでしょう、普通はね)、この場を借りて改めて感謝を述べさせていただきます。またお店でお会いいたしましょう。
わたくしが店内にいた約8時間、これでもかというほどロックの名曲を全身に浴びまくりました。
あんな爆音で長時間にわたって音楽を聴いて、その後遺症が翌日まったく残らないのはすごいナーと思った。口を耳元に寄せて話をしないといけないくらいの爆音なのにね。よいお酒は二日酔いにならないみたいなものでしょうか。300万円の音響システムは伊達じゃないですよ。サウンドがすごすぎて好き。
本当に色々な曲を聴いて楽しませてもらったなかで、特に印象に残ったのがチバユウスケの声でした。特に“青空”が素晴らしくて泣きそうになってしまった。
とんでもなくイカした歌を歌う人ですよね。わたくしは特に“ブギー”が好きです。
赤い照明の中で聴くチバユウスケはことさらにイカしていたので、彼の声を聴きたくなってしまった時は叫びに足を運んでみようと思います。(かかるかどうかはわからないけれど)
はー。少しだけ追記しようと思ったのに意外と長くなってしまった。前半と文体も違うのも少し気持ち悪いネ。
周年イベントの感動が抜けないうちに改めてお邪魔しようと思っているので、もしもお店でお会いできたら乾杯させてください。
よろしく哀愁でございます。