僕の好きなガンズ 【後編】

「ほぞを噛む」って慣用句があるじゃないですか。

まあ、日常生活でそんなに頻繁に使う言い回しではないかもしれませんが、意味や用法などはみなさんご存知なのではないでしょうか。

でもね、「ほぞ」ってなんですかね。

「ほぞを噛む」は使ったことがあっても、「ほぞ」単品で使うことはまずないですよね。

でね、調べましたよ、あたしゃ。「ほぞ」の意味を。

「ほぞ」とはガムのことでした。

「ほぞを噛む」なんて気取って言ってますが、ただガム噛んでるだけですよ。ははは。

 

あ。ご挨拶が遅れました。

どうも。僕です。

先日からGuns N' Roses日本公演のブログなぞを書いてインターネットに公開しております。

「インターネットをやってないから読めないよー」という方がいらっしゃったらプリントアウトした物をお渡ししますので、遠慮なくコメント欄でお申しつけください。

 

というわけで、中編にあたる前回は開演直前までの模様をお送りいたしました。

中編でまだ開演すらしていないのは我ながらヤバいなと思いますが、色々と書かなければいけない事柄が満載だったので仕方ありません。

わたくしが託された超重要任務の内容については前回記事をご参照くださいませ。

sasayaki-okami.hatenablog.com

 

 

しかし、「ご参照くださいませ」と言って全員がご参照してくださると思うほどわたくしも純粋ではござーません。

ええ。簡潔に事情を整理させていただきますよ。

わたくしに託された“超重要任務”とはなにか? その真相に迫ります。

 

 

【わたくしの重要任務】

天才絵師ねこさんが今回の来日公演のために制作したガンズ横断幕。

それをアクセル・ローズのパーソナル・アシスタント、ベータさんに手渡すことがわたくしに課せられた任務。

しかし、会場内における横断幕の設置がNGであることが判明し、“横断幕がある場所までベータさんに来てもらう”という当初の予定に狂いが生じてしまった。

りょうさん&ねこさん、完全に万事休す。

はたしてベータさんに横断幕を手渡すことができるのか…?

 

(わたくしが託された横断幕と同じデザインのイラスト)

まあ、前回の記事はこんなところで終わっているわけでございます。
まだ開演すらしていないのに前編・中編を費やしてしまったわたくしのストーリーテリングの下手さについてはご容赦ください。

重要任務はあるし、ステージは想像以上に近いしで開演前は本当に緊張の極致でございました。

指先とかマジで冷たくなってたし、唇も軽く紫になっていたかもしれない。

 

 

ベータさんとの目印である“最前エリアに掲げた横断幕”を失ってしまったりょうさん&ねこさんでしたが、運命の女神はまだ我々を見捨ててはいませんでした。

わたくしの隣席にいるじゃ子さん(チケット争奪戦に勝利するためにマウスを新調したキチ ガチ勢)、なんと今日は赤い着物で会場に足を運んでいるのです。

これを新しい目印にしない手はありません。

ベータさんに「レッドのキモノガールのところへカモン!」とルー語でテキストを打ったねこさん。

あとはベータさんが来てくれるのを待つだけです。

 

 

オープニングアクトLOUDNESSが終わり、いよいよガンズ待ちタイムに突入。

上手のステージ袖を見ると、なんとそこにはベータさんがいるではありませんか。

必死に手を振ったり横断幕をチラ見せしたりしてアピールする我々。

ベータさんもそれに気付いてにこやかに手を振り返してくれるものの、こちらまで来てくれるような素振りはありません。

刻一刻と迫る開演時間。やはり勝負は終演後でしょうか…。

 

プロモーター側からガンズの開演予定時刻と告知されていたのが18時。

その時間が近付くにつれ、場内では叫ぶ者、バンド名を連呼する者、手拍子をする者、指笛を吹く者、鍋にコラーゲンの塊を投入する者、最大限の緊張感をもって注視を続けていく者などが入り乱れて大変な騒ぎに。

開演予定時刻を約20分ほど過ぎたところで場内が暗転。

コロナ以前と遜色のない怒号や悲鳴が場内を埋め尽くします。今のご時世、これで大丈夫なのかナー…

 

などと心配する間もなく鳴り響く、何万回と聴いたあのベースライン。

そう。2016年のリユニオン以来、不動のオープニングナンバーとして君臨し続ける“It's So Easy”であります。

のっけから場内はハチの巣をつついたような大騒ぎ。

“Fuck off!!”パートで無数の中指が頭上へと突き上げられた瞬間、「あ。コロナ以前のロックコンサートが戻ってきた!」と感じたのはわたくしだけではないでしょう。

もちろん以前とまったく同じ形ではないとはいえ、長らく忘れていた“あの頃の空気”を感じられたことがすごくうれしかったナー。

 

今回の日本公演はアジア・オセアニアツアーの初日ということもあり、序盤は試運転くらいのテンションになるかもしれないと予想していたのですが、場内の熱気に鼓舞されたのか開始早々からアクセルがパワー全開モードに突入。

びっくりするくらい声が出ていて、その調子のよさがバンドの勢いに拍車をかけると同時に当のアクセル本人にも自信を与えているような印象を受けました。

海外のファンサイトなどではパワー不足の高音を“ミッキーヴォイス”と揶揄されることもあるアクセルですが、この日はパワフルな低音も上手く織りまぜながら素晴らしいパフォーマンスを披露。

主催者のホームページに掲載されていた“バンドのクルーが「今日のショーは最高だ!」と興奮していた”という話もうなづけるほどの充実した内容で、曲が終わるたびに隣りの席のホロワーさんと「今日はすごい! ヤヴァイ!」ってずっと言ってた。

この来日公演を観た人はマジで誇りに思ってもいいレベルですよ、絶対。

(驚くほど絶好調だったアクセル)

続く“Mr.Brownstone”の横揺れグルーヴで場内を気持ちよく揺さぶったあとは、2008年リリースの目下の最新アルバム『Chinese Democracy』のタイトルトラックへ。

リユニオン後のツアーで同曲が演奏された際には「スラッシュとダフがチャイデモ収録曲を!」と感動したものだけれど、今はもうすっかりセットリストの定番となっておりますね。

ちなみに初日に演奏された『Chinese Democracy』収録曲はこの“Chinese Democracy”のみ。“Better”が聴けなかったのは意外だったナー。(2日目は演奏された)

わたくしはチャイデモ大好きマンなので遠慮せずにどんどん演奏してほしい。

 

ダフの重たいベースラインがその始まりを告げるのは、スラッシュとダフがガンズ脱退後に結成したスーパーバンドVelvet Revolver最大のヒット曲“Slither”。

ガンズのファミリーツリーにその名を連ねるバンドのヒット曲ということでファンの認知度も高く、「ヘイ!」の掛け声もバッチリ決まっておりました。

この曲がセットリストに入ったときは驚いたものだけれど、それ以上に驚いたのが初披露時におけるアクセルの歌メロのうろ覚え加減。あれはもう伝説でしょう、完全に。

「えっ。もしかしてメロディを作りながら歌っとらん?」と真顔で訊きたくなってしまうほどのヘロヘロぶりだった初披露から早数年が経過したこともあり、今ではしっかりと“俺なりのスリザー”を歌いあげていたアクセル。

スラッシュ&ダフに対するアクセルの気遣い、2015年12月に急逝したVelvet Revolverのシンガー、スコット・ウェイランドへのトリビュートなど、“Slither”をセットリストに入れることにした理由は色々と考えられるのだけれど、個人的にはガンズの未発表曲“Bring It Back Home”で同じようなギターリフが使われていることも理由のひとつなんじゃないかナーと思っております。

噂によればアクセルは元メンバーが出したソロ作は全部チェックしているという話なので、“Slither”を聴いて「これはガンズのリフだろ!」と思ったとしても決して不思議じゃない。

 

Velvet Revolverの再始動はまったく考えていないであろうスラッシュ&ダフ)

スラッシュが弾くリンク・レイの“Rumble”を導入部に据えるアレンジで演奏されたのは、ガンズの名を一躍有名にした大ヒット曲“Welcome To The Jungle”。

アクセルの「ここがどこかご存知ですかー!?」の絶叫とスラッシュのアイコニックなギターリフはいつ聴いても鳥肌ものとしか言いようがない。

今回初めてガンズを観たファンにとっては「本物やー!」と叫びたくなる瞬間だったのでは。

スラッシュのギターリフを軸としたバンドジャムから雪崩れ込んだのは“Double Talkin' Jive”。後半のインストパートも実にスリリングで聴きごたえのあるもので、各プレイヤーの息の合い方に「6年以上続けてきたツアーは伊達じゃないな」と唸らされました。

続くポール・マッカートニーのカバー“Live And Let Die”では、この曲最大の見せ場とも言われるアクセルのロングトーンの絶叫が炸裂。間奏が一番盛り上がる曲というのも珍しいのでは。

翌週に30周年記念リマスター盤の発売を控える『Use Your Illusion』からの曲が続いたものの、そのことに言及するMCがないのはガンズらしいナーと苦笑してしまったけれど、まあ言われなくても買いましたよね、みなさん。

 

前回の来日公演では演奏されなかった“Reckless Life”と“Shadow Of Your Love”という超ファストチューンに挟まれる形で演奏されたのは(よく考えるとすごい並び)、『Use Your Illusion Ⅱ』収録の超名曲“Estranged”。

個人的にめちゃくちゃ思い入れのある曲だということもあるけれど、両日ともに“名演”と呼びたくなる素晴らしい演奏で涙腺が緩んだ。

サビらしいサビもなくパートからパートへと次々と展開していく楽曲で、ガンズとしてはかなり異質な楽曲だと思うのだけれど、次のアルバムではこういうチャレンジがまた聴けたらいいナーと思っております

“Reckless Life”と“Shadow Of Your Love”はどちらもライヴで聴くのは初めてでめちゃくちゃ嬉しかったー。

今年の6月に突如としてセトリに復活した“Reckless Life”は「日本に来るまでにセトリ落ちしているのでは…」と心配しておりましたが、無事に披露されてわたくしは感無量でございます。

 

怪しげなグルーヴでオーディエンスを揺さぶる“Rocket Queen”は『Appetite For Destruction』からの定番曲。

シングルカットこそされていないものの、ファン人気が非常に高い名曲です。

ギターソロは今年で在籍20年を迎えたリチャード・フォータスからスラッシュへとバトンが渡されるリレー形式で、トーキング・モジュレーターを使ったスラッシュのプレイは「東京ドームのビデオで見たやつやー!」となりますね。なりますよね。なりませんか。

希望を感じさせるような曲調へと一変する後半のパートでは、リズムに合わせてオーディエンスが拳を突き上げるのがお約束。

今回も勢いよく拳を突き上げようと腕を折りたたんだ瞬間、わたくしの目に飛び込んできたのは…

 

 

手拍子を要求するアクセルー!!

 

 

えー! 今までこんなことしたことあった、アクセル!?

「さあ、みなさんご一緒に!」という声が聞こえてきそうなくらい大きなアクションで手拍子を要求なさっております。

当のアクセルにそこまで言われたら(言われてない)ファンとしては断るわけにはいきません。

たたんだ腕を勢いよく伸ばし、アクセルの動きにシンクロさせながら両腕を頭上で打ち鳴らしました。気分は完全にエアロビクス。

でも、アレですよね。“Rocket Queen”の最後のパートは本当にいいですよね。

これまでにアクセルが書いた中で他人への思いやりが一番あふれている歌詞だと思うし、誰かが不当に虐げられたり辛い状況に置かれたりしていることを嫌う彼の気質がすごくよく表れていて大好き。

だってあなた、“All I ever wanted was for you to know that I care”ですよ。

アクセルにこんなことを言われたら幸せの絶頂のうちに死ねるであろうホロワーさんが何人いることか…。

 

まさかの手拍子タイムの余韻も冷めやらぬうちにスタートしたのは、イントロのドラムビートだけでそれとわかるハードロックナンバー“You Could Be Mine”。

1992年の東京ドームのライヴビデオでアクセルがドラムライザーから跳び上がり、竹とんぼのように回転する姿を見た衝撃でその後の人生が変わってしまったのがわたくしです。

あれはまさに“人生を捧げるべきバンドに出会った瞬間”だった。

最後のコーラスパートはアクセルが歌うメロディと同じような感じで「ユクビマーイン!」で歌う人が多数派なのかもしれませんが、わたくしはイジー風の「ユー クッビマーイン」が好きです。ええ、どうでもいい情報です。

ちなみに“You Could Be Mine”の演奏中に使用されているスクリーン映像に“Oh My God”の歌詞が登場するのはどういうわけなんだろうね。

もしも“You Could Be Mine”のAlt曲が“Oh My God”だったとしたら「おい!俺はユクビマイン聴きたかったよ!」って怒るお客さん多数だよね、きっと…。

 

アクセルの「Listening preasure」なる誉め言葉で聴衆に紹介されたのは、ガンズが誇る長身痩躯イケおじベーシストことダフ・マッケイガン

「コンバンハー! マザーファッカーズ!」という丁寧なんだか乱暴なんだか判断に苦しむ煽り文句で場内を沸かせます。

前回はジョニー・サンダースの“You Can't Put Your Arms Around A Memory”をイントロに配したソロタイムを披露した彼ですが、今回は正真正銘1曲のみ。

初日はThe Stoogesの名曲“I Wanna Be Your Dog”、2日目は1993年リリースのカバーアルバム『The Spaghetti Incident?』収録のMisfitsの“Attitude”を演奏。

“I Wanna Be Your Dog”はガンズとしては日本初披露だったけれど、ダフがソロで来日したときに聴いたことがあるという人も多いのでは。

“Attitude”がめちゃくちゃ短い曲だからなのか、オーディエンスとのコール&レスポンスタイムが設けられておりました。アクセルのお色直し時間を捻出するためなんでしょうかね。

 

ダフが頑張っている間にお色直しを終え、ターミネーター風のいかついスタイルでステージに戻ってきたアクセル。

ここからは昨年リリースされた新曲を披露する時間に突入でございます。

その先陣を切ったのは、ガンズとしては異質なサウンドを持った半インダストリアル・ロックチューン“Absurd”。

正直に告白してしまえば、この曲のライヴにおけるポテンシャルには少々…いや、かなり懐疑的だったわたくしですが、実際に聴いてみたらめちゃくちゃライヴ映えしていて震えました。

原曲“Silkworms”のビートを完全に作り変えて、かなり勢いのある楽曲へと進化していたのは知っていたけれど、ここまで盛り上がれるライヴナンバーだったとは…。

“Sucking acid through your heart”のところで胸をゴリラみたいに叩くアクセルも可愛くてよかった。

 

続いて披露された“Hard Skool”は、従来のガンズのイメージに近いストレートなハードロックナンバー。

こちらも昨年リリースされた目下の最新曲で、先ほどの“Absurd”と同様に『Chinese Democracy』制作時のアウトテイクにスラッシュとダフが手を加えて完成させたものです。

『Appetite For Destruction』期のアウトテイクだと言われても違和感のない楽曲だということもあり、新曲対決は“Hard Skool”の勝ちかナー、などと予想しておったわけですが、(わたくしの中では)“Absurd”に軍配が上がってビックリ。

“Hard Skool”がよくなかったというよりも“Absurd”が予想外のポテンシャルを発揮したと言った方が正確かもしれませんね。

アクセルの歌詞がわやわやになってしまう場面もあり、もしかしたら“Hard Skool”が彼の身体に馴染むまでにはもう少し時間が必要なのかナーとも思いました。

 

映画『暴力脱獄』の有名なセリフが場内に流れ出すと、次の楽曲を察知した観客から大きな歓声が。

スクリーンには戦火に焼かれながらも気高くはためき続けるウクライナ国旗。

戦争の欺瞞を鋭く糾弾する“Civil War”がより一層切実に響く時代に生きている…生きてしまっていることを再確認させられた瞬間でした。

静かなパートとラウドなパートが交互に登場する、いわゆる“Nirvanaパターン”を持つ同曲(もちろん発表はNirvanaブレイク前)は、その静と動の対比が本当に見事で、今回の来日公演でもっとも心動かされた時間だと言えるでしょう。

アウトロとして演奏されたのはジミ・ヘンドリックスの“Machine Gun”。

弦楽器隊とドラムのシンクロするリズムに合わせて顔をぶるぶると揺らすアクセルの真剣な表情がなんとも形容しがたい空気を醸し出しておりました。(決して笑ってはいけない的な意味で)

 

ウクライナ国旗をフィーチャーした“Civil War”)

 

“Civil War”の濃密な余韻が場内に漂う中で始まったメンバー紹介で事件発生。

バンドの紅一点キーボーディスト、メリッサ・リースを恭しく紹介したアクセルがどういうわけか調子に乗ってその名前を必要以上に連呼し始めたではありませんか。

まさかの事態にどうしたらいいのかわからなくなってしまったメリッサちゃん。最後には恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆ってしまう事態に。

37年にも及ぶガンズのライヴ史上もっとも可愛い瞬間を目撃してしまったのかもしれません、我々は。

 

翌日の公演でも留まるところを知らないアクセルのイタズラ心。

そのターゲットとなったのは、まさかのスラッシュでした。

メンバー紹介が進み、残すはスラッシュとなったところで「これで全員だな。そうだろ?」とすっとぼけるアクセル。

「リチャード呼んで…ダフ呼んで…これで全員じゃね?」だの「あ! わかったぞ! いや、ちがうかー」だの学園祭レベルの小芝居を続ける彼の姿に「こんなアクセル見たことない!」と興奮したファンも多かったのでは。

わたくしの席からはスラッシュの表情を窺い知ることはできなかったのだけれど、おそらく半笑いだったのではないかなと思う。

 

そんなメンバー紹介タイムに限らず、今回の来日公演はアクセルがとにかく楽しそうにしていたのが印象的だったナー。

客席に手を振ったりするおじさんになったのは数年前からの話なので特に驚くべきことではないのだけれど、嬉しそうにバンドメンバーに絡んでいく場面も多々あって、ステージを本当に楽しんでいるように見受けられました。

特にステージ後方の3人、メリッサ、フランク、ディジーにステップを踏みながら順繰りに絡んでいく光景は、往年の名番組『なるほど!ザ・ワールド』で各回答者の席を回っていく故・愛川欽也の姿を彷彿とさせるほど。

そんなちょっとしたやり取りからバンド内の雰囲気のよさが伝わってきて、「ああ。これがずっと続きますように」と祈らずにはいられませんでしたよ、あたしゃ。

 

そして、何よりも驚いたのはアクセルが日本語をしゃべったことでしょう。

「コンバンワ」とか「ドモ アリガトォー」とか気の利いた海外アーティストなら誰でもステージで使いそうなレベルの挨拶だけれど、それを口走ったのが誰あろう、あのアクセル・ローズですよ。

「日本語で語りかけてくれそうなロックアーティストランキング」があったら下から数えた方が早そうな人じゃないですか。もうね、死ぬほどビックリしましたよ。

 

ここから先はわたくしの推測になってしまうのだけれど、今回の来日公演に際して、「感染対策の関係で客の声出しは基本的に禁止されている。盛り上がりに欠けるかもしれないけど、そのあたりは大目に見て欲しい」というようなことが主催者側からバンド側に伝えられていたのではないかなと思う。

客席からのリアクションが希薄だとどうしてもコミュニケーションが一方通行となってしまい、事情はわかっちゃいるけどどうにも気まずいよね、という微妙な空気に陥ってしまう危険性は否めない。

アクセルはそういった事情を理解した上で、「ほら! 俺なんて日本に来るのをめちゃ楽しみにしてて、君たちの挨拶まで覚えてきちゃったよ! 俺はめちゃ楽しいよ!」とガラでもない日本語を使って僕らに歩み寄ってくれたんじゃないかな、と。

どう考えても日本のためだけに準備したと思しき『AKIRAティーシャーツを着てみたり、客席からの声に「何か御用ですか? なんなりとお申しつけください」などとおどけてみたり、とにかくオーディエンスと繋がろうという姿勢がすごかった。

考えすぎなのかもしれないけれど、もしもわたくしの憶測が当たっているとしたら、アクセルにここまで気を遣わせた国は他にないのでは…。

 

(まさかの『AKIRAティーシャーツで登場したアクセル)

脱線が過ぎましたね。セットリストの続きに話題を戻しましょう。

観るたびに円熟味を増していくスラッシュが色気のあるトーンでひとしきり弾きまくった(本当に弾きまくった!)ギターソロタイムのあとは、みなさんお待ちかねの“Sweet Child O' Mine”へ。スイチャですよ、スイチャ。

最初の一音が鳴った瞬間に客席がドッと沸くあたり、さすが世界一有名なギターリフのひとつに数えられるだけのことはあります。

今年7月公開のマーベル・スタジオ製作映画『ソー:ラブ&サンダー』の劇中歌に使用されたことで再び脚光を浴び、8月のSUMMER SONICでは会場内でひたすらに流れ続けてスイチャノイローゼ患者を続出させた俺たちのスイチャ。

そのスイチャ祭りの総仕上げだと言わんばかりに本家ガンズが11月の埼玉で正真正銘のリアルスイチャを炸裂させているわけです。もうお腹いっぱいですよ、あたしゃ。

こんなにもスイチャを聴いた年がいまだかつてあっただろうか。それは誰にもわからない。

 

俺たちのスイチャの余韻が圧倒的なまでに場内を支配する中、スタッフの手によってステージに運び込まれたグランドピアノ。

これが出て来るということはもうアレしかありません。

そう、“Sweet Child O' Mine”と双璧を成す大ヒット曲“November Rain”であります。

ついにノヴェンバーに“November Rain”を聴いた人生になるのかと思うと感無量です。雨が降っていたら完璧だけれど、濡れるのは嫌なのでそこは強く遠慮しておきたい。

イントロを弾いているアクセルが客席で揺れるスマホのライトを見て嬉しそうな顔をしていたのが最高だったナー。初日なんて首をぐるんぐるん動かしてスタンド席を見回してた。

これは他の国でもやっている行為だと思うのだけれど、海外ファンから「日本人はセルフォンのライトを振るだろ。あれはアメージングだ!」と褒められることもあったりするので、もしかしたら日本では特にやる人が多いのかもしれんね。知らんけど。

スラッシュの世界最高のギターソロを目の前でガン見できたのは至福のひとときでございました。美しすぎるでしょう、あんなん。

 

ライヴの後半に突入し、ひたすらに超人気曲をたたみかける必殺モードを発動させたガンズ。

すでにカバー曲であることすら忘れてしまうほど“ガンズの曲”として定着した“Knockin' On Heaven's Door”で我々の息の根を止めにかかります。

いやー。絶好調アクセルの歌唱が本当に素晴らしくて倒れそうになりましたよ。特に最後の“Whooo”ってところの美しさがヤヴァイ。あれを聴いただけでも35,000円の価値があったのでは?と思ったマイライフでした。

2日目のノッキン演奏中には、スタッフが次の“Nightrain”で使用するラッパ(超うるさい)を鳴らしてしまう大事件が発生。

動作確認としてボタンをちょんちょんって触ってたけど、押したら音が出る仕組みなんだからそりゃ鳴っちゃうでしょうよ。

巨漢のセキュリティが「おい! なにやってんだ、おめーは!」って大笑いしてたけど、これが90年代のガンズだったらその場で解雇くらいの大騒ぎになっていたのでは…。

 

あ。みなさま、序盤でご説明したわたくしの重要任務を覚えてらっしゃるでしょうか。

そう。横断幕をベータさんにお渡しするという大役でございます。

あのね、ノッキンの途中で来たんですよ。

 

 

誰が。

ベータさんが。

 

 

巨漢のセキュリティを引き連れて、ベータさんが横断幕を受け取りに来たんですよ!!

めちゃくちゃ優しい笑顔で。

横断幕(とアクセルにサインを貰うためのイラスト)をお渡ししたあと、「お願いしますよ!」という意味を込めて親指をグッと立てたら、ベータさんが「まかせておきなさい!」って感じで同じポーズをしてくれましてね…。

もうそれだけでベータさんのファンになってしまいましたよ、あたしゃ。

このごくごく短いやりとりで、アクセルがベータさんを長年そばに置いている理由がなんとなくわかったような気がしました。本当に毛布みたいな暖かみがある人ですよ、ベータさんは。

もうね、速攻でねこさんにメールしました。慌てすぎて「ベータ来た!」って敬称略で。

終演後、ボロ泣きで登場したねこさん。あんなに美しい涙を見たのは、いつだかのオリンピックでの浅田ちゃんの涙以来です。間違いない。

(翌日、ねこさんの身にはすごいことが起こったのだけれど、わたくしはそれを自分の目で見ていないので、このブログで語れるのはここまで)

 

順番が前後してしまって恐縮ですが、2日目には“November Rain”と“Knockin' On Heaven's Door”の間にグレン・キャンベルのヒット曲“Wichita Lineman”のカバーが挟み込まれていました。

2017年8月にグレン・キャンベルが死去して以来、セットリストの準定番となった楽曲で、日本で演奏されるのはこれが初めてのこと。

ガンズの楽曲と比較するとかなりレイドバックした曲調ということもあり、会場内の雰囲気は大御所歌手のディナーショーへと瞬時に変貌いたしました。

注目すべきは“Wichita Lineman”のために制作されたスクリーン動画で、地上から遥か上空、雲を突き抜ける高さにそびえ立った電信柱の上で作業員が朽ち果てているという完全に狂っている内容に爆笑してしまったのはわたくしだけではないでしょう。

“遠くにいる愛する人を思いながら作業をする保線作業員”の心情を歌った楽曲だと思うだけれど、白骨化しちゃったらダメじゃん。労災ですよ、完全に。

 

(作業中に絶命してしまったラインマン)

耳がおかしくなりそうなほどにやかましいラッパ(汽笛のイメージ?)の音を合図にスタートしたのは、本編ラストを飾る“Nightrain”。

いわゆるヒットシングルではないものの、ガンズのライヴに欠かすことのできない珠玉のハードロックチューンです。

ここまで18曲を熱唱したアクセルの声はいまだ衰えを見せず、ドスの効いたダーティーな歌いっぷりが最高だったナー。

あれは2日目のことだったか、お立ち台の上でギターソロを締めくくったスラッシュをグイッと押しやり、「はいはい、次は俺の番ね!」とばかりにポジションを奪取したアクセルに思わず笑ってしまった。

90年代の彼らだったら間違いなく険悪な空気になっていたはずの行為だけれど、こんなことが許される間柄になったのだなあ、とその喜びをひとり噛みしめておりました。

 

本編が終わり、並びで観ていたホロワーさんたちと「すごいすごい。今日はヤヴァイヤヴァイ。なんなんだ、コレは」と感想にならない感想を交換していると、再び場内暗転。

アンコール一発目は“Coma”。スラッシュのペンによる10分を超える大作です。

リユニオン前は数えるほどしか演奏記録がなかったレア曲ですが、2016年以降は高い頻度で演奏される定番曲に。

バンドにとってかなりのチャレンジとなる難曲を復活させた理由について問われたアクセルの答えは

 

スラッシュが喜ぶと思ったから

 

なんだよ、それ! スラッシュ思いかよ!

アクセルがこんなことを言ってしまう世界線で生きていることに喜びを感じるマイライフです。

ていうか、間奏でアクセルが「コォマァ…イエァ!」とか言うやつなんなんだ。あんなのやってなかったよね、前は…。

そのうちアクセルが「コマコマコーマ」などと言い出すのではないかと心配になったのはわたくしだけでしょうか。

 

“Coma”終了後、ステージ上に準備された3脚の椅子。

これから急にトークショーでも始まるのかと思いきや、その椅子に座ったのはアコギを抱えたスラッシュ、ダフ、リチャードの3名。

ギター部の部室のような雰囲気で始まったのは、なんとビートルズの“Blackbird”でした。アコギの定番中の定番とも言える名曲に大歓声が上がったのは言うまでもないでしょう。

“Blackbird”をイントロ代わりに初日は“Patience”、2日目は“Don't Cry”へと続く流れでした。

どちらも素晴らしい演奏だったのだけれど、アコギのままシームレスに突入する“Patience”と違って“Don't Cry”は楽器の持ち替えが発生するため、若干スムーズさに欠けていたのも事実。

“Patience”からの“Don't Cry”ならスムーズだし、観客の立場としても両方聴けてお得だったのにナー。

(仲良しギタートリオ)

どんなに楽しいことでも必ず終わりがやってきます。

ガンズのライヴにおいてもそれは同様で、何万回も聴いたあのコードが鳴れば「あ。これが最後だな」と覚悟を決めるしかありません。

そう。ガンズ不動のラスト曲“Paradise City”の始まりでございます。

終わってしまう悲しみと愛する名曲を聴ける喜びがせめぎ合う不思議な時間。

わたくしは“Spin me 'round”と歌ってアクセルがゆっくりと回転するアクションが死ぬほど好きなのだけれど、必ずやってくれるとは限らないんですよ。

でもねえ! あんたねえ! 今回はねえ! 2日間ともやってくれたんですよ!

“Spin me 'round”で回るアクセルが好きなファンが世界中にたくさんいるはずだから、可能な限り回ってあげてほしい。よろしくお願いします。

 

そして、“Paradise City”名物といえばアリーナエリアを埋め尽くす勢いで噴射される紙吹雪。

そのカラーリングは基本的に公演地の国旗がモチーフとなっていて、ここ日本においては日の丸と同じく紅白の紙吹雪が盛大に宙を舞うのが定番です。

ごく稀に前の公演地で使用された紙吹雪の残りがわずかに混じっていることもあり、それは「〇〇(国名)のカス」として珍重される貴重アイテム。

紙吹雪自体にバンド名が印刷されているようなことは一切ないのですが、そんな物でもライヴの思い出として持ち帰りたいのがファンの性というもの。

フロアに大量に散らばる紙吹雪を持ち帰りたいときに便利なアイテムがジップロック

わたくしもね、初めてガンズのライヴに足を運ぶ方のために「紙吹雪を持ち帰るにはジップロックが便利ですよー」とかTwitterで発信したりしてね、もう準備万端なわけですよ。

なんなら忘れてきた人の分として予備を持参したりしてね。

 

 

いやー。なかったよね、紙吹雪。

 

 

普通なら“Paradise City”の後半、楽曲がスピードアップするところでプシューと噴出されるのだけれど、うんともすんとも言わなかったよね。

あれ? 不発ですか? 機材トラブルですか?

などと訝しんでしまったけれど、ステージ周りのどこを見ても紙吹雪を噴出するための機材自体がないんですよ。

まあ、こういったご時世なので観客が床に落ちた物を拾ったりするのは不衛生だよね。感染防止の観点から見たら100点。

そしてなによりもこの円安のご時世、経費削減が重要だよね。経営の観点から見たら100点。

コロナや経済の問題が霧散した暁には今回の分まで紙吹雪をまき散らしてください。よろしくお願いします。

 

 

まあ、ノー紙吹雪という少し残念な要素もあったけれど、それを差し引いても今回の来日公演は過去一レベルで楽しかったー。

演奏内容は掛け値なしに素晴らしかったし、ライヴの前後で多くのガンズファンのみなさんとお話できたことも含めて最高の3日間(前乗り含む)を過ごすことができました。

この経験をトータルで考えたらチケット代は楽々とお釣りがくるレベルですよ。最高の経験だった。

セットリストはガンズの平均から言えば少し短めだったことは確かなのだけれど、逆にこのくらいソリッドな方がベストなのでは?と思わされてしまう完成度の高さを感じたのはわたくしだけでしょうか。

柔軟性に欠けると批判されがちなセットリストも個人的にはそんなに嫌ではなくて(もちろんレア曲は聴きたいけど)、大規模なワールドツアーを続けるにあたってはある程度の型を決めておく必要があるのは当然のことだし、一生に一度しかガンズのライヴに足を運ぶ機会がないかもしれないファンのために公演を確実にこなしていくことが現在の彼らにとっての最優先事項なのではないかなと思う。

以前のアクセルは「100%のショーができないならやらない」という方法でプロフェッショナルを貫こうとしていたけれど、今の彼は「どんなことがあっても100%に近付ける努力をする」という角度からプロフェッショナルを貫こうとしているように見えます、わたくしの目には。

そういう部分を“ロック魂の欠如”などと感じてしまう純粋な方々は、何が起こるかわからない剥き出しの火薬みたいなバンドを探して愛でたらいいんじゃないですかね。

少なくとも今のガンズはそういう時期をもうとっくに通り過ぎているように思えるし、わたくしは今現在の彼らを愛しております。

えー。何が言いたいかと言えば、「このまま末永く活動してまた来日してね」ということです。よろしくお願いいたします。

 

 

このままブログを締めくくるのもアレなので、最後に今回の来日公演で体験したエピソードをひとつだけ披露させてください。初日の話でございます。

 

わたくしはブロックの一番端っこの席、つまり通路側だったのだけれど、通路を挟んで向こう側の席のおっさんがめちゃくちゃ通路にはみ出してくる人で、もうわたくしの真横で観ているような状態だったのです。

まあ、真横に立たれる分にはわたくしが視界を遮られるわけではないし、ちょっと邪魔だなあくらいに思っておりました。

でもね、ライブ中に自分の席に戻ってずっとスマホをいじってたりするんですわ、このおっさんが。

そんなことが続いたもんだから、わたくしもだんだんと腹が立ってきましてね。だって、メンバーがそれに気付いたら絶対によい気持ちにはならないやん。

 

そうなってくると坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのメンタルで、通路にはみ出してくることにもめちゃくちゃムカついてきたわけです、わたくしが。マイセルフが。

こんなカスみたいなおっさんに真横に立たれるのはまっぴらごめんだと思い、本編終了後にブロック内に配置された係員さんのところにお願いしに行ったのだけれど、その際のやりとりが謎すぎたのでここでご紹介いたします。

 

 

わたくし「すみません。あそこのお客さんが自分の席を離れて私の真横まで来てしまって邪魔なので、注意をしていただくことは可能ですか?」

係員さん「(場所を確認して)えー。あそこは消防隊が出入りする通路でして、何かあった場合に通路を空けていただければ問題ありません」

わたくし「(ちょっと何言ってるかわからないけど)じゃあ、自分の席を離れてあそこまで来ること自体は問題がないということですか?」

係員さん「はい。消防隊が出入りする際に通れれば…」

わたくし「(ちょっと何言ってるかわからないけど)通路にはみ出して観ている人を注意したりするのが係の方のお仕事なのかと思ってお尋ねしたんですが、そういうことならお願いすること自体がお門違いということですよね。すみませんでした」

 

 

釈然としない気持ちを抱えたまま席に戻ると、先ほどの係員さんがわたくしの元へ。

さっき話を切り上げてから約5秒後の出来事です。

 

 

係員さん「申し訳ございません。勝手な判断で適当なことを言ってしまいました。是非注意させてください!」

 

 

この5秒で君に何があった!? 二重人格かよ! こわいよ!

 

 

このやりとりが関係しているかどうかは不明ですが、翌日の係員さんはめちゃくちゃ厳しい人で少しでも通路にはみ出そうものなら「貴様ー! この非国民がー!」と叫びそうな勢いですっ飛んできてました。

何事もほどほどがいいと思うよー。

 

 

というわけで、2022年のGuns N' Roses来日公演のブログは今回でおしまいでございます。

後編だけ異常に長くなってしまいましたが、どうかご容赦ください。

忘れているエピソードを思い出したらTwitterで垂れ流させていただきます。

よろしく哀愁です。