怪作『ヘヴィ・トリップ』の感想を早く言いたい

明けましておめでとうございます。

令和2年ですね。

みなさま、お正月はいかがお過ごしでしたか。

タレントの三田村邦彦さんのWikipediaなどを読んでお過ごしでしたか。

 

あ。申し遅れました。僕です。

本年もよろしくお願いいたします。

 

そんな申し遅れがちな僕ですが、昨年末に映画を観てまいりました。

本日はその話をさせていただきたく、こうしてパソコンの前に座っておるわけです。

まあ、「座っておるわけです」などと書いたものの、実際にはキーボードを演奏する小室哲哉よろしく立ったままパソコンに向かっているのですけれど、読んでいる人にはそのあたりはわかりませんので、「座っておるわけです」などと書いた次第です。

そんな話はどうでもいいですね。本題へ入りましょう。

 

年の瀬の新宿で観て来た映画。

それは『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル』なる作品であります。

タイトルからしてB級感がムンムンしておるのですが、そこに宣伝写真を追加するとB級どころかC級へ一気に転落いたします。

こちらをご覧ください。

 

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馬鹿さ加減しか伝わってこないフライヤー

 

どうですか。馬鹿でしょう。

初期Sodomのアーティスト写真のような真剣であるがゆえの面白みが醸し出されております。

この作品、単なる馬鹿映画で片づけることもできるのですが、実のところ僕は非常に感銘を受けまして、こうしてブログを書いている次第であります。

 

まだご覧になっていない方のためにネタバレは極力避けていくつもりですが、予備知識を入れずにご覧になりたい方はこのあたりで離脱なさってください。

タレントの三田村邦彦さんのWikipediaなどを読むことをおススメします。

もうすでにご覧になった方、多少の予備知識が入っても差し支えないという方はこのまま読み進めてください。

読み終わった後は、タレントの三田村邦彦さんのWikipediaなどを読んで頭を切り替えるのもいいでしょう。

『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル』の日本語版公式サイトへのリンクを貼っておきますので、どんな映画なのか興味を持ってくださった方はそちらをご確認いただければ幸いです。

 

http://heavy-trip-movie.com/

 

 

物語の舞台はフィンランドの田舎町。

結成から12年間、1回のライヴ活動も無く、ギタリストの実家の地下室でカバー曲を延々と練習しているだけの名も無きアマチュアメタルバンドを巡る物語です。

「名も無き」と表現したのは比喩ではなく、物語の冒頭では本当にバンド名すら決まっていません。

 

主人公はヴォーカリストのトゥロ。

長身長髪の若者ですが、非常におとなしい性格で、一部の住人からは「変な音楽をやっている変わり者」として徹底的に馬鹿にされています。

ロックスターになることを夢見ながら、介護施設で入居者の対応をする日々を送るトゥロでしたが、ある日のバンド練習後に転機がやってきます。

ライヴをやろう、という提案が持ち上がったのです。

そのためにはオリジナル曲が必要だ、というわけで作曲活動も開始。

とあるハプニングからリフが生まれ、見事なキラーチューンを完成させたトゥロ達。

そこに大チャンスが到来し…。

 

 

ここから先はネタバレせずに語ることが不可能なので、ストーリー紹介はこのあたりで終わりにしましょう。

まあ、簡単に言えば、田舎町で細々とメタルバンドをやっている社会不適合の若者達を題材にしたスラップスティック・コメディ映画です。

映画の後半、物語が一気に展開するあたりからのドタバタぶりは壮絶で、筒井康隆先生のお好きそうなドタバタの連続は一見の価値あり。

前半も笑えるシーンが盛りだくさんなのですが、後半はそれが一気に加速し、爆笑のドミノ倒しと表現したくなる馬鹿馬鹿しさ。

ポリティカル・コレクトネスなどどこ吹く風と言わんばかりの危ないネタも満載で、誰かを傷つけるジョークはダメだけど、こういうので笑ってはいけないという風潮もおかしいよナー、などと思ってしまった次第です。

 

ヘヴィメタル、それもブラックメタルが題材ということで、「そういうのはちょっと…」と敬遠してしまう方もいるかもしれません。

たしかに「メタルを知ってるから笑える」ネタがあるのは事実ですが、大ヒットした『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』と同じように、メタルを知らない人にも伝わるように作られている作品だと思います。

メタルの生真面目さ、馬鹿馬鹿しさ、メタラーであることの悲哀、メタルへの愛情。

それらは音楽の知識がなくても十分に感じ取れるはずです。

 

基本的にはコメディ映画ですが、非常に泣ける作品でもあります。

ダーウィン・アワード』と『スタンド・バイ・ミー』を足して、『メタリカ 真実の瞬間』や『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』、『スパイナル・タップ』あたりの要素を混ぜ合わせ、そこにトナカイの血と吐瀉物をぶっかけたような味わいです。

最大の泣き所は、主人公のトゥロがとある決心をするシーンなのですが、このシーンでは“爆笑しながら泣く”という貴重な体験ができるはず。

劇場でパンフレットを購入した方は、上映後までページを開かないことをおススメします。

何の予備知識も入れず、そのシーンを目撃して欲しい。

 

映画のキャッチコピーとして使用されている「後悔するなら、クソを漏らせ!」というフレーズは劇中に登場する台詞(実際には少し違う)なのですが、この言葉が作品のアティテュードを見事なまでに表現しています。

「中途半端なまま一生を終えるくらいだったら、失敗してもいいからスッキリしたい」ということです。

劇中で実際に使われているフレーズを聞けば、この意図がより鮮明に伝わると思います。

ポジティヴな意図を込めたフレーズを排泄物と絡めてくるあたり、この映画の馬鹿さ加減がわかるでしょう。

 

このフレーズから連想したのが、ニール・ヤング“Hey Hey My My”という楽曲でした。

その中で登場する「It's better to burn out than fade away」という一節。

カート・コバーンが遺書の中で引用したフレーズとしても有名です。

彼は「だんだん消えて行くくらいだったら燃え尽きた方がマシなんだ」と解釈したのでしょう。

僕が『ヘヴィ・トリップ』を観て“Hey Hey My My”を連想したのは、「燃え尽きてしまってもいいから、一瞬の輝きだったとしてもいいから、大きく燃え上がりたい」という 強い意志を感じ取ったからだと思います。

永遠に凡庸だと思っていた日常を一瞬だけでも大きく変えるチャンス。

そこにすべてを賭けた若者達の物語です。

どうですか。観たくなってきたでしょう。


Neil Young- My My, Hey Hey (Out Of The Blue)

 

そして観終わった後に頭の中で流れたのが、Thunderの“Higher Ground”という楽曲。

「この街で一生を終えたくない」と歌われる歌詞の内容は物語にピッタリです。

Thunderはブラックメタルバンドではありませんが、歌詞を読みながら聴いてもらえば、僕の言いたいことがなんとなく伝わるのではないでしょうか。

英国の至宝Thunderをまだご存じない方は、この機会に是非。


Thunder - Higher Ground

 

カルト映画的なノリで紹介してきましたが、実際のところ客入りはかなり良いみたいです。

僕が観に行った回もほぼ満席でした。

上映後には盛大な拍手まで起こる盛り上がり。

年末年始は満席で立ち見が出るほどの大盛況だったようなので、これから音楽ファン以外の一般層にも飛び火するかもしれません。

関連グッズのデザインも秀逸で、映画館では倹約家の僕も思わず買ってしまったほど。

まかり間違って社会現象になるなんて可能性もゼロではないので、今のうちに劇場へ足を運んでみてください。

Twitterの公式アカウントの中の人も面白いでフォロー推奨です。

 

 

最後に私事をひとつ。

少し前から「川崎りょう」名義でライター活動を開始いたしました。

今のところ執筆したのが10本弱、名前が出るような仕事はゼロなのですが、今年も引き続き頑張っていきたいと思っております。

書かせていただける場所がありましたら、Twitter等でご連絡いただければと思います。

よろしくお願いいたします。

 

【2020.1.6追記】

当記事の内容に関して、Twitter上で「ブラックメタルではない。あれはデスメタルだ」との指摘をいただきました。

本来ならばその方に直接返信するべきなのですが、当該ツイートを削除されてしまったようなので、この場を借りてご説明したいと思います。

 

正直なところ、劇中でオリジナル曲として演奏されている楽曲は、ブラックメタルではないと僕も思っています。

しかし、僕があえて「ブラックメタル」と表現した理由は、

 

・メンバーのひとりがコープスペイントをしている

 (コープスペイントブラックメタルバンドに特徴的な白黒のメイク)

・物語の終盤、とあるメンバーが着ている衣装にプリントされた文章

 (ネタバレになるので詳細は避けますが、ブラックメタルについて言及されています)

 

以上の2点にあります。

劇中でバンドが標榜している音楽ジャンルは、広義ではブラックメタルに属するものであるとメンバー自身が認識している、と解釈しました。

誤解を避けるために「ヘヴィメタル」と書けばよかったかもしれませんが、上記の理由から「ブラックメタル」と表現した次第です。

ヘヴィメタルを聴かない方からすれば、デスメタルブラックメタルも大差ないと思いますが、この場を借りて回答させていただきました。